◎ブラックタイガーを半身づつ食ったぞぉー
にしても、同級生とのプーケット「おもてなし」の旅、考えさせられることが多かった。善し悪しではない。
カメの独断と偏見かもしれないが、歳を重ねると、我欲は徐々に薄らぎ、欲しいものは浮かんでこない。超70歳同士ともなれば、相手に好きにさせる、気ままにさせるのは容易いことだ。全てを受け入れる、これでもかの無理難題も受け入れ、不可能も可能にしてしまう。大層な思いやりだ。それをお互いがやったら、結果、相手を慮って、結局、何もしないってことかと思い至った。いわば、公務員の不作為ならぬ、超70歳同級生同士の不作為ってことだろう。
パトンビーチの街を歩くと、やたらシーフードレストランが目につく。いずれも店頭に生簀を並べ、シーフードの王様、ロブスターやブラックタイガーが跳ねていて、お客が指差すとそのエビの角を握ってザルに入れ、脇に置いてある秤に乗せて、値段が決まる。年がら年中そんな光景を目の当たりにしていると、さすがに食欲がそそられる。ロブスターなんて、子供のころ食ったことがあった程度の記憶しかない。まして、大人になってからは高嶺の花、全く食べたことはない。活きのいい巨大なエビを何度も見ていると、超70歳同士、どちらからともなく、「話のタネにも、一度は食ってみたいよなぁ」と口にして、ニヤッとした。高価なのは知れている。一体、いくらするんだろう。お互いの財布の中身を秘かに弾いて慮っている。彼は機制を制して「一匹づつでは食い切れないだろう」なんていう。いっそ、奢ってもいいかなとも思ったが、それでは同級生同士の関係にヒビが入ってしまう。さて、どうする?
ある夜、初回の客が引いた後のシーフード店で空いた席に座り、「食うか」と店頭の生簀をのぞきに行くと、空。その隣の生簀には、もっと大きなジャンボ青海老、それを計量してもらったら、2000THB(約6000円)だと。迷わずキャンセルした。で、オーダーしたのがチキンヌードル、いわばラーメンだ。両サイドのテーブルで若い二人連れが、これでもかとたくさんの注文品にむしゃぶりついていたのが、羨ましくも、情けなかった、ねぇ。
次は雨上がりの街で、彼は観光ガイド本で、地元お勧めのシーフード店を見つけたという。いよいよかと、覚悟を決めてのエビ選び。もうそんなに選択肢は残っていない。掴み上げたエビを計量すると「1600THB(約4800円)」。すかさず、「もっと小さいの」と反応していた。敵もさるものか、その女性店員は大きな電卓を弾き「1300(約3900円)」と表示させて笑った。OK!と笑い返すしかないだろう。エビの調理法も色々あるのだが、女性店員とのそんなやりとりから、BQQ(バーべキユー)。テーブルに届いたのは勿論、特大の一匹で、縦に半分に切って、半身づつ食った。まさに、おもてなしの味だった。