2012/08/30

◎疲労困憊お爺さんのチェンマイ体験・・・


にしても、むかし、むかし、といっても、ほんのひと月ほど前のこと、日本から独りでチェンマイを訪ねてこられたお爺さんがおったそうな。サービスアパートメントに滞在して、家賃は決まりだからと前払いしたそうな。そして、お爺さんは三輪タクシーに乗って遠くのスーパーまで行き、そこで一番安い自転車を買ったそうな。で、それからは毎日乗り回して、あっちのショッピングモール、こっちのショッピングセンター、そして市内各所にあるタラート(市場)などに出向き、並べられた商品雑貨を見て回っていて、時に安くて気に入ったものがあったりすると買い求めていたが、ほとんどは見るだけのことが多かったそうな。ショッピングセンターの警備員なぞは飽きもせず、よく続くよなぁと呆れておったそうな。

といって、お爺さんはチェンマイ観光の目玉でもあるワット(寺院)巡りにはとんと関心を示さなかったそうな。というのも、多くの寺院には野良犬が多く住み着き、お爺さんが境内に入ると、キャンキャン、ウォーウォーと後退りしながら飛びかからんばかりに吠え立て、あっという間にお爺さんは5、6匹の野犬に取り囲まれて、腰を抜かさんばかりに愕き、足の震えが止まらず、以来、ワットは特別のイベント以外はご法度となったそうな。

雨季のせいか、チェンマイの朝はいつも曇り空が多く、昼前後から徐々に日差しが強くなる傾向が強いが、日差しがギラギラと照りつけるようなことは少なかったそうな。時に、それが一天俄かにかき曇り、雷雨に見舞われることはしばしばだそうな。
その日、お爺さんは少々寝不足な上、これまでの疲労も蓄積しているようで体調は優れず、それでも曇り空だからとショッピングセンターに足を向け自転車のペダルを踏み始めたそうな。いつものようにつば広の帽子に長袖のポロシャツ、Gパン、スニーカーといった出で立ち、安全運転、それに汗もかかないよう、自転車のスピードは緩め、ゆっくりゆっくりしたペースでセンターに着き、そこのフードコーナーでお気に入りのポーク挽肉バジル炒めと揚げタマゴのせご飯を頂き、ナーム()ボトムを飲んだあと、お爺さんに何故か館内を巡る気力は湧かず、もうここはいいよなぁと独りごちて自転車に跨ったそうな。

でも、館内を出てこれほど陽気が一変しているとは思いも至らず、真夏の空、あくまでも青く澄んで広がり、白雲はモクモクと綿塊状に固まってキラキラ優雅な輝きを増していたそうな。お爺さんは、そんな肌を直撃するような強い日差しを全身に浴びながら車に混じって走りながら、直ぐに息が荒くなってくるのを感じたそうな。同時に、空気が薄くなっているとも感じ、意識が朦朧としてくるような気もしていたそうな。それは気持ちが悪いというのではなく、恍惚感ともいえばいえそうな、空中に自転車ごと飛び上がり、漂っているかのような気がしていたそうな。

ふと横手を見ると、この道路は城跡の周りを囲むお堀沿いを走り、お堀の両側は歩道が整備されていて、その上、歩道には大きな並木が連なり、そこここに木陰が出現していたそうな。何たる行幸、お爺さんは自転車を降り、手を上げて歩道に移動したら、そこにはベンチまであって、そこに座ったお爺さんは何度も大きく深呼吸をしたそうな。これが、生きた心地かと、お肉に酸素が取り込まれていく肉の疼きまで感じていたそうな。お爺さんは、お堀の歩道に出来た木陰を確かめながら、自転車を押したり、跨ってこぎながら南下、宿のアパートを目指していったそうな。暫くして、お爺さんは軽い眩暈のような、虚ろな気分に覆われ、ベンチにへたり込んだら、すっかり熱くなったお爺さんのお肉が無性に水を欲しがっていたそうな。

と、車道を挟んだ向こう側に飲料店が並んでいたそうな。迷うことなく、お爺さんは車が途切れたところで、向こう側に渡たり、シェークが出来そうな店の前に立ち声をかけたら、出てきたのは若い女性で、それもかなり可愛いとあって、お爺さんはそれだけで嬉しくなって、もうお爺さんはしどろもどろに覚えたての「シェーク」とか口にして、ただ待っているのもなんだから、デジカメを取り出し身振りで写真を撮らせてもらっていいですかとかいって、彼女にニッコリ笑顔で返されて、ウハウハ、シャッターを押していたらブルーのシェークが出来てきて、20THB札を手渡し、ストローを口にして、思い出したように今度は自分の姿をデジカメに納めたいのでシャッターを押して欲しいと厚顔無恥にも頼み込み、出来た写真がモザイクがかかっているとはいえ、コレだそうな。

ベンチに戻ったお爺さんは、500mlはあろうかというシェークをストローで吸い続けていたが、飲み干すのはさすがに無理と悟ったらしく、自転車の前篭に入れ、再び、自転車に跨り、向いの店を遠めに見たが、シェーカーの若い女性はとうに店の奥に引っ込んでいたそうな。そこから100mは進んだか、目の前にビル壁の赤文字「AIA(生保グループ)と病院の石塔、いや愕いたのなんのって、こりゃ、お爺さんが部屋の窓から毎日見下ろしている景色じゃないか、またまた「ここは何処」状態に陥ったそうな。でも、これはお爺ちゃんにとっては大きな安堵感によるもので、直ぐにお爺さんの住む11階建てのアパート(写真)も見えてきて、何とここで一句生まれたそうな。

チェンマイ面白可笑し死際ぞ・・・

*なお、この疲労困憊劇、あまりのことに呆れ果て、一夜明けてじっくり振り返ってみたら、何とお爺さんは前夜、腰痛完治目前をいいことに長のご無沙汰(15)だったGに勤しんだそうで、それも疲労困憊の一因かと思い当たったそうな。ウフッ。